近年、原作漫画のオリジナル絵(原稿/生原稿)が失われる危機が現実味を帯びています。創作活動の象徴として、多くのファンや研究者が感慨に浸るオリジナル原稿ですが、デジタル化や保存環境の未整備、さらには所有者の高齢化などにより、その多くが風化・散逸しつつあります。 失われる理由とその背景 デジタル移行の急速化デジタル作画が主流となる現代では、手描きの原稿そのものが「時代遅れ」と捉えられる傾向も。一方でデジタルデータにはない「筆跡の微細さ」や「画材の質感」は、表現の歴史的価値として高く評価されています。 保存環境の判断不足湿度・温度・光による劣化のスピードが手描き原稿には非常に敏感です。適切な管理がされていないと、紙の黄ばみやインクの退色、さらにはカビや虫食いによる劣化が進行します。 所有・流通の不透明さ同人作家や個人保有者を含め、原稿が“どこにあるのか”すら追えないケースが多く、「所蔵者不明」状態に陥って散逸してしまう現状があります。 なぜ今、守るべきなのか? 文化史的価値の保全漫画は日本発祥の文化として、世界中に影響を与え続けています。手描き原稿は、創作当時の技術や葛藤、作家の息遣いが感じられる“証拠物”として、後世への資料的価値が非常に高いのです。 未来への創作インスピレーション若手漫画家や学生にとって、プロのオリジナル原稿を見ることは、作風・表現・技法研究の重要な学びになります。それが散逸すれば、未来のクリエイターに“学びの場”も閉ざされてしまうことに。 保全のために今できる対策 デジタルアーカイブの促進高精細なスキャンや写真撮影を行い、著作権を保護しつつデータベースとして保存。デジタルアーカイブは、劣化や災害への対策にもなります。 適切な保存環境の整備中性紙の使用、紫外線カットガラス、温湿度管理――これらを講じた専用保管施設の整備は不可欠です。自治体や文化団体によるサポートや補助の利用も考えられます。 共有と啓発を通じた意識向上展覧会やオンライン展示会を通じて、ファンや一般への周知活動を強化し、「原稿を守ること、その価値を知ること」の輪を広げていきましょう。 原作漫画のオリジナル原稿は、ただの“紙”ではありません。そこには、作家の想いと技術、創作のプロセスが刻まれた、かけがえのない文化資産が宿っています。今だからこそ、私たち一人ひとりがその価値に気づき、未来へつなぐ支援をすべきではないでしょうか。